クリエイターを、「食業」に。

サウンドクリエイターとしてフリーで活動する楽曲制作者、NR-Takaの、クリエイター問題に対してあれこれ考え、書き連ねるブログです

クリエイターなら知っておくべき「下請法」とは

皆さん、おはようございます。

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クリエイターは個人事業者と言うのは、これまで何度も語ってきましたが、個人事業者という形で依頼を受けて制作の仕事をする点においては、クリエイターは個人事業者であり、下請けでもあります。

しかし、下請けというと、中小企業というイメージが有り、中小企業というと…あまりいいイメージが無いのも否めません。しかし、中小企業がなければ、どんなに有名な大企業でさえも製品に必要となる部品を調達できず、生き残れません。でも、中小企業というと、大企業から良いように買い叩かれるといったイメージは拭えません。

今回は、中小企業を守るための法律「下請法」について、軽く説明をしていこうと思います。

 

下請法とは

 

http://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/gaiyo.htmlwww.jftc.go.jp

 

簡単に言うと、個人事業者を含めた中小企業が仕事を受諾する親企業に対し、不当な扱いを強要されることを防ぐための法律です。

簡単に言うと、親企業が下請けに対し、不当に安い価格や納期での仕事の強要、受領内容の一方的な変更、下請けが発したクレームに対する報復の禁止が挙げられます。

なぜ下請法を採り上げた?

 

nrts-creator.hateblo.jp

 

以前採り上げた、アニメーション制作が放送日までに間に合わず放送休止に追いやられた件でも話題となりましたが、アニメ制作現場については、低い月給、過酷な労働環境、不当な買い叩き、あまつさえ「好きなことをやっているのだから身を切るのは当然」と言わんばかりの現場からの無責任な声…これについて、公正取引委員会からパブリックコメントが発表された、という報告が、先の参議院議員選挙では惜しくも落選した、表現規制反対の急先鋒、山田太郎氏のツイッター経由でありました。

 

http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/dec/161214_1.htmlwww.jftc.go.jp

 これのPDFにある、No.85の事例について、アニメーション制作現場における下請法違反事例などが採り上げられています。

また、No.86、92の事例についても、クリエイターにとっては切っても切れない密接な問題だと思います。

改めていうと、下請法はクリエイターにとって密接な法律。知っておくことで、自分は不当な仕事の強要から守られている、そういう安心感があるだけでも、仕事に対する心の安定が随分と違うでしょう。

簡単に説明する下請法の禁止事項(第4条)

様々な禁止事項がありますが、クリエイター業において身近だと思われるものをピックアップしてみました。

受領拒否

注文されたものの受領を拒否すること。

クリエイターの場合、成果が実績となるので、受領を拒否されると当然それが使われず、仕事の実績を証明するものがないので、次につながらない可能性が有ります。

当然、受領拒否からのその分の作業代金踏み倒しに発展することもあるでしょう。

代金の支払い遅延

受領後60日以内に定められた支払期日までに正当な理由無く支払わないこと。

クリエイターの切実な問題の1つ。

仕事をしても、指定した日時までに代金が支払われなければ、仕事をこなしてるのにお金が尽きて万策尽きる、いわゆる黒字倒産の懸念があります。請求すると今後仕事を回さないと言った報復に発展する可能性も有り、なかなか毅然と請求できないのもあるでしょう。

代金の減額

予め指定した報酬金額を親企業が減額すること。

但し、不当に低い金額とわかっていながら業務を締結した場合、これには抵触しません。

返品

受け取ったものを返品すること。クリエイター業の場合、受領拒否と似たところが有ります。

当然、返品したから仕事に対する料金を支払わない、支払った報酬を返してくれ、というケースにつながります。

買い叩き

世間の相場と比べて不当に低い金額を定めること。

クリエイターがわかっていれば良いのですが、クリエイターが世間の相場をわかっていない、ランサー系サイトやBtoBサイトで激安価格を掲げている同業者を参考にするなど、クリエイター側が買い叩き相応の金額を提示するケースが多いのが厄介です。

購入・利用の強制

仕事をさせるために親業者が無用に物品やサービスの購入、利用を強制すること。

但し、業務契約を締結する以前で業務をすすめる上で購入が必要となるものについては含まれません。「ボーカロイド曲を作って欲しい」という依頼があった際に、ボーカロイドのソフトウェアを購入するのは十分想定できる必然であり、購入・利用の強制ではありません。

報復措置

クリエイターなら誰しもが恐れ、買い叩き状況を生み出している主因の一つとも言えるでしょう。その名の通り、業務請負に関する不正を公正取引委員会や業界組織に報告したことに対する制裁行為の禁止のことです。

ただ、余程のことがない限り、いっそのこと取引停止で縁が切れたほうが良いのかもしれませんが。

不当な経済上の利益の提供要請

「クリエイターの皆様に仕事を斡旋します、登録料6万円をお支払いください」とかはこれに引っかかると思われます。

不当な給付内容の変更及びやり直し

クリエイター側に因がないことについて、リテイクを強要したり、納品物を変更したりなどを、クリエイターに不利な条件下で行わせることがこれに当たります。

但し、リテイクや納品の変更に正当な代価を支払うケースにおいては、これに違反しないと思われます。

 

nrts-creator.hateblo.jp

 

…ほぼ全部ですね。

簡単に説明とは何だったのか。

下請法が適用できない事例

個人対個人の取引(ランサーサイト含む)

親事業者に当たるのは、資本金1000万円以上であることと概要に書かれているので、それ以下の企業や個人事業者同士においては、下請法が適用されないケースが考えられます。

そのため、クリエイターはどれぐらいの報酬や納期が適切かというのを定めておかなければなりません。

ランサー系サイトでも相手が個人だったりするケースが多いですが、ランサー系サイトが仲介し、取引の場を用意するということを考えると、ランサー系サイト自体を親事業者と考えることも不可能ではありません。ただ、現状ではランサー系サイトに対し、明らかに不当な案件については報告するぐらいしか、改善策はありません。

契約してしまった場合

無償や激安案件はクリエイターを殺すだけです。

しかし、明らかに割に合わない案件だとしても、その内容に目を通し、契約を締結してしまった場合、下請法でも対処できない可能性は高いでしょう。契約する前に不当な内容だとわかっていれば、裁判で争っても、クリエイター側に問題回避の義務があり、問題回避をすることは十分可能だった、と判断されるのがオチでしょう。

但し、明らかに不当だとわかっていて、その契約に対して不満を持っていたが、仕事が来なくなる、契約を切るなど脅されて契約を強要された場合は、下請法の報復行為の禁止、買い叩きの禁止に抵触するでしょう。

 

結局のところ、クリエイターが適切な相場を知らない限り、下請法を知っていても猫に小判のような気もします。

値札を付けずに野菜を売っている八百屋はいません。

自分の仕事について、どれぐらいの価値があるのか、どれぐらいの労力を要するのか、どれぐらいあれば生活や事業が維持できるのか…それを考えていくことも、これから個人事業者が激増する中で、潰されないようにするには必要なことではないでしょうか。