ストリングスについて考える
皆さん、おはようございます。
ストリングス…
それは、オーケストラで大部分を占めるだけでなく、ポップスのバックオケにも欠かせない弦楽器の総称。
優雅で美しい響きを奏でることも、リズミカルで可愛い音を奏でることも可能な、表情豊かな楽器セクションです。
そんな表情豊かで、優雅な響きのストリングスに魅せられ、日々ストリングスを使った曲を制作しているわけですが…今回は、ストリングスについて色々と語ろうと思います。
ストリングスという楽器はない
これはもうお約束ですね。
ストリング(String)は弦を意味します。
ストリングスとは、弦を使った楽器のことですが、基本的には、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスからなる集合を指します。
ギターや琴、シタールなどの民族楽器も弦を使っていますが、ストリングスとは呼ばないです。ピアノも弦を叩いて発音するので弦楽器とも言えますが、演奏方法が異なるので鍵盤楽器に属します。
バイオリン
ストリングスの華形、バイオリンです。
左手でネックを持ち、肩と顎で本体を挟み、右手で運弓を努めます。
その姿勢から、演奏者は左手の筋肉が右と比べて強く発達している、というのも珍しくはありません。
最低音はG2(中央ドをC3とする)、C6ぐらいまで高い音が出ます。オーケストラの中でも高音を担当する楽器です。
オーケストラやストリングス四重奏では、第1バイオリン・第2バイオリンの2グループに分けられ、言わずもがな、オーケストラの中で一番人数が多いグループが第1バイオリンになります。
ビオラ
バイオリンと比べて一回りサイズが大きいバイオリン属の楽器。
最低音はC2、最高音は大体G5ぐらいですが、バイオリンとの旋律の兼ね合い上、まず最高音付近を使うことは滅多にありません。(オーケストレーションにおいて、むやみに上の声部より高い旋律を奏でてはいけない、という制約のため)
大きい分だけ、バイオリンよりも多少低い音域を演奏することができます。中域~高域を担当する楽器ですが、C2~G2が発音できるというのが意外と大きかったりします。
チェロ
バイオリンよりずっと大きく、立てて演奏するバイオリン属の楽器。
楽器が大きくなればなるほど、半音変化させるために運指で動かす距離が増えるので、早いフレーズは当然、低音楽器のほうが苦手にはなります。
最低音はC1、最高音はG4ぐらいです。バイオリン四重奏だとベース音を務めることもありますが、C3付近の高めの音域でメロディを奏でれば、バイオリンやビオラと違って温かみがある音色が聴こえます。
但し、ポップスではボーカルと帯域が被ったり、中低域(300~600Hz)が集中したりするため、ポップスでのストリングスセクションには用いられないこともあります。
ちなみに、チェロの正式名称はVioloncelloです。Violincelloじゃないんですよね。
コントラバス
ダブルベースともいいます。コントラバスの場合、人によっては「ウッドベース」のことを指す場合もあります。コントラバスは唯一、バイオリン属ではないです。
最低音はC0、ヘ音記号でも記譜しきれないほど低い音域を受け持つため、基本1オクターブ高く記譜されています。オーケストラ楽器の中でも1・2を争う最低音部担当の楽器です。
ジャズやビッグバンドでは、弦を指で弾いて音を出し、ベースを担当するのがよく見られます。ドリフターズの、故・いかりや長介氏の遺影にも、氏がウッドベースを演奏しているシーンを選んだことは今も印象に残っています。
なお、ポップスではベースやギターの帯域と丸かぶりで、ストリングスの爽快感とは裏腹なので、使われないことが多いです。
ストリングスの奏法
アルコ(Arco)
ストリングスの奏法といえばこれです。
弓を持ち、弦を弾いて音を出します。
ロングトーンの場合、弓を切り返すときに音が途切れたり弱まったりします。
強く引けば強く鋭い音、弱く引けば弱々しくなめらかな音が出るのですが、当然ながら「強い音でロングトーンを長めでお願いします」というのは無理です。
弓をひく場合、本体から離す方向に弾く「下げ弓」と、本体へと押しこむように弾く「上げ弓」があり、下げ弓は出音が強く、上げ弓はアタックタイムが遅めの印象があります。
連続した音符を演奏する場合でも、下げ弓もしくは上げ弓で弾き切るのか(スラー)、途中で切り返すのか、それとも1音ごとに上げ下げを切り替えるのか(デタシェ)…それによって音の滑らかさや1音ごとの明瞭さが変わってきます。
ピチカート(Pizz)
弦を弓ではなく、手でつまんで弾いて演奏する奏法です。
アルコより弱いですが、アタック感があり可愛い音が出ます。
ドラクエ5の冒険の書を選ぶ時の音楽、あの音がピチカート奏法です。
当然ながら、音量が大きい、素早いフレーズは苦手です。夜明け前より瑠璃色なのフィーナ姫のテーマがピチカート奏法で16分アルペジオをやっていたのを聴いた時にはコーヒー吹き出しました。
ピチカート奏法には、おもいっきり摘んで持ち上げてバチィン!とやるような奏法(バルトークピチカート)もあります。使いドコロは非常に難しいです。
コン・ソルディーノ(Sold.)
奏法、といえば微妙に違いますが、バイオリンに弱音器を付けることで、本体の共鳴を抑え、あっさりとした弱奏の音が出ます。これも、音圧感を重視するポップスでは狙って使わないかぎり難しいですね。
ディビジ(div.)
奏法ではないですが、バイオリンは基本単音しか鳴らせません。しかし、楽譜には同時に2音以上の音を演奏せよと書いてある場合があります。
その時は大体div.と書かれていることが多く、一時的に1グループを半分に分けて、片方は高音部、もう片方は低音部を演奏する事を指します。書いていない場合、全員で2音同時に鳴らす事になりますが、連続した音符ではまず無理です。
ストリングスの規模について
ソロストリングス四重奏
第1バイオリン、第2バイオリン、ビオラ、チェロが1・1・1・1の全部ソロ構成です。筆者も好んで使っています。
弦を引く鋭さは強く、音に輪郭を感じられますが、オーケストラのような豊かな響きについては劣ります。
チェンバーストリングス
4・3・3・2など、小規模なストリングス編成です。劇伴音楽やポップスなどで使われるのがこれぐらいの規模だと思いますね。場合によってはコントラバスも1本使われます。
ソロストリングスよりも響きがあり、ソロストリングスに近い音の輪郭感もあるので、ポップスでの相性が良いと思われます。
標準的なストリングスアンサンブル
8・6・4・4・2や14・12・10・8・4などの編成です。ちなみに、2015年のトラベリング・オーガストでは、10・8・8・6・4の編成でした。
見ての通り、このあたりからようやくコントラバスが使われてきます。
大体、第1バイオリンの人数を基準に、声部が1個下がるごとに2人減っていく感じです。ソフトウェア音源では予め設定人数が決まっているので、特に考える必要はないかと思います。
人数が増えれば増えるほど、響きは厚みを増して豊かになりますが、音の輪郭はぼやけます。この音のぼやけ方が好きな人と嫌いな人で分かれるでしょう。
大規模な場合、第1バイオリンだけで20人という編成もあります。
ストリングスの配置について
ストリングスセクションは、オーケストラ、ポップスにおいて、各楽器パートごとに左右に振られています。楽器ごとに左右に振られているのが、ストリングスの豊かな響きとステレオ感につながっています。
なお、ソフトウェア音源の中には、最初からパンニングが固定されている(大体は標準配置)ものもあります。ソフトウェア音源の中でリバーブを付けられるタイプの音源の場合は、パンニングが固定されている場合があるので、導入の際には注意が必要かもしれません。
標準配置
左から、第1バイオリン、第2バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの配置です。左に高音が集まり、右に低音が集まるので、音響的にまとめやすいというメリットがあるそうです。
クラシック配置
標準配置になる前の配置はこんな感じでした。
バイオリンが左右に大きく振られ、左は高域と低域、右は中域~中高域をカバーするので、それなりにバランスを考えた配置と言えるでしょう。
筆者の配置例
フルオーケストラ曲やストリングスアンサンブル曲を作る場合、こういう配置をすることが多いです。バイオリンが左右に展開しているのはクラシック配置と似ていますが、第2バイオリンが、第1バイオリンの3度下でハモることが多いので、ステレオ感を維持しつつ気持ちよく聴こえることを目指して、この配置になっています。ビオラが右側にありますが、第1バイオリンとオクターブでユニゾンすることもあるので、その場合はチェロと入れ替わって左側に来ることもあります。
コントラバスが中央なのは、ベース楽器が真ん中のほうがやりやすいからです。
標準配置、クラシック配置ともに、楽曲によっては第2バイオリンとビオラ、ビオラとチェロが入れ替わるというのも珍しくありません。また、舞台の関係でコントラバスが中央奥に配置されることもあります。
コンサートマスター
第1バイオリンのところに緑色の四角がありますが、この位置に座る第1バイオリン奏者をコンサートマスターと呼びます。その名のごとく、オーケストラを統括する一番偉い人で、演奏前にチューニング用の基音(A3)を鳴らして調整させたり、指揮者の緊急事態の時には指揮者の代わりを務めることもあります。
よくよく見ると、指揮者はコンサートマスターと握手を交わしたりすることがあるので、じっくりと見るのも面白いですね。
演奏中に楽器が破損したら?
演奏中に弦が切れたなどで、演奏続行が困難になった場合、バケツリレー方式で楽器を渡していきます。一番後ろの人は一旦舞台袖に引っ込み、予備の楽器を持ってきます。
なお、弓は複数の動物の毛で作られているため、演奏中に切れます。ストリングスセクションを近接で映している時に、釣り竿みたいに糸が舞っているのは、演奏中に弓の毛が切れているからです。多少なら切れても演奏自体には問題はありません。
まとめ
ストリングスセクションの配置や規模は、楽曲のアレンジに従って選べば、存在を誇示しつつ、雰囲気を妨げない曲ができると思います。
ストリングスは、様々な場面で使われ、その音は素晴らしく、単独でもよし、アレンジでも大きな一助となる反面、綺麗に聴かせるためにはアレンジが難しいセクションとも言えます。特にポップスでは、サビで後ろのほうで申し訳なさそうに単音で鳴っていることも珍しくありません。
ストリングスはここまで行けるんだ、というものをアピールできる、そういう楽曲を作っていきたい、その気持ちを再認識し、つなげていこうと思います。
最後に、ストリングスを使った参考曲を紹介して、記事を締めようと思います。