クリエイターを、「食業」に。

サウンドクリエイターとしてフリーで活動する楽曲制作者、NR-Takaの、クリエイター問題に対してあれこれ考え、書き連ねるブログです

プロの育成は無償であるべきだ

皆さん、おはようございます。

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様々な業界で、教育力の低下が懸念されています。

特に、業界が厳しいと言っている業種ほど、教育に費やすリソースがない、外部から有能な人を引っ張ってくればいいやといった、社内教育の体制が十分でない様子が伺い知れます。

しかし、外部から引っ張ってくればいい、その存在は誰が作るのでしょうか。

金さえ稼げればそれでいい、それは業界の繁栄と言えるでしょうか。

耳を傾けると、プロらしからぬぞんざいな仕事に頭を抱える現場の声も度々聞こえてきます。これで業界の将来は大丈夫なのでしょうか…そうは思えません。

今回は、業界のプロを育てることについて、意見を述べていこうと思います。

 

プロの育成は無償であるべきだ

サウンドクリエイター募集で検索をかけると、出てくる出てくる…「実務経験」の条件。

特に遊技機メーカーで多いですが、実務経験2年以上という条件がついた案件はザラです。しかし、サウンドクリエイターの仕事がしたい、でも実務経験の敷居を跨げない…そういう想いに苛まれたことは幾度と無くあります。で、そういう案件は1年2年たっても万年募集中だったりします。

よくよく考えれば、実務経験の敷居を跨ぐことのできるクリエイターが、果たしてこういう案件に応募してくるでしょうか。年単位の実務経験を積み、フリーでいるのであれば、まず自分で営業して仕事を手に入れ自活することは十分可能だと思います。それでいていつも実務経験者を募集している…人手不足に困っているのであれば、条件の閾値を下げるはずですが頑なに下げない…

それらを踏まえると、実務経験者を雇うことが目的ではなく、何かバシッと来る、スパイスの効いたクリエイターが居たら欲しいという目的ではないかと思います。なので、実務経験の敷居をクリアしても、スパイスが効いたクリエイターであること適わなければ、おそらく採用に至ることはないでしょう。

しかし、外部リソースに対して釣り糸を垂らし、大きな魚が食らいつくのを待つとして…その大きな魚を誰が育てるのでしょうか。

有償が引き起こす問題

単純に考えれば、クリエイターを育成すると言ったら専門学校や職業訓練校、プロダクション所属の訓練所などがそれにあたります。ただ、専門学校に対しては同業者から否定的な意見も多く、専門学校に行ったから自分の目指す道に辿りつけたということを保証してくれません。中には、将来の夢を見せるだけ見せて、その間に金をむしりとり、あとは捨てるというケースもあるでしょう。

 

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 職業訓練を有償化することの問題点は、職業訓練で儲けるという儲け主義が先行し、実習生の今後に対して無責任な扱いが増えることや、年額7桁にも上る高額な授業料が仕事に必要な知識技術を手に入れることができない足切りになってしまう、経済的な障壁であることがあります。

無論、専門学校すべてを否定するわけでもありませんし、そこに通って初めて得られるプロとしての知識技術があることも確かです。しかし、プロになるための知識技術の値段は決して安くなく、狭き門とも言われるクリエイター界隈で、それを突破できる可能性と膨大な出費を秤にかければ、出費の多さが故に足を止めてしまうケースも多く見られることでしょう。

ちなみに、運も実力の内です。実力があっても時の運1つで報われないことはザラにあります。

無償の育成と知識の無償化は違う

結論から言うと、プロの育成は無償であるべきだと思います。

その際たる理由は、今のところは有償での教育に関する問題が深刻だからと言っておきます。

でもそれだったら、プロの知識を無料でばらまいてしまえばいいんじゃない?と思うかもしれませんが、誰もそんなこと言ってません。むしろそれは危険な行為です。

知識の無償化が引き起こす問題

今の時代、ネットで調べればクリエイターに必要な知識技術はあれこれ手に入ります。

ただ、それが行き過ぎると、プロの知識技術が安易に流出することにもなります。

もちろん、プロの知識技術がアマチュアに漏洩して、それが直ちにプロを揺るがす存在を育てるかと言ったら、それはないと思いますが、知識技術だけがマチュアに流れ、プロを名乗った際に、実績のために無償依頼を請けたり、業界相場から大きく逸脱した値段で仕事を請けるなど、同業者や業界にダメージを与える可能性はあります。特にネット上で仕事を請け負うケースが多くなった今日では、無償激安で請け負うクリエイターの存在は、堤の穴になることが十分考えられます。

 

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 ただ、大多数は、DTM講座、お絵かき講座と称して情報を公開していても、その情報を100%取得したからといってプロになれるというわけではないと、しっかり線引をした上で情報公開をしてたりはしますが。

知識管理もプロのうち

プロの育成が有償であることのもう一つの理由、それは、プロに必要な知識技術が漏洩する危険性にあります。特に、専門学校に通い勉強したはいいが、挫折するなどして諦めた場合…そこで学んだ知識技術をある時、ブログなどでばら撒いてしまう危険性があります。本人からすれば自分の知っていることをブログ記事にした程度と認識していますが、実際はプロの現場の情報などを不特定多数にばらまいていることになります。

で、これについてはプロが不利になるだけかというと、実はアマチュアにとっても良くない風潮です。

もうすぐボーカロイド2・初音ミクの10周年です(2016.8.5現在)。

ボカロ黎明期のボカロオリジナル曲と、近年のボカロオリジナル曲を聴いてみると、面白いかどうかは別として、明らかに近年のほうが楽曲のクオリティが高いです。しかし、にも関わらず再生数は下がっています。ボカロジャンルの衰退とかいう声もありますが、それを除いても、一昔前と比べて、再生数を増やすことが難しくなっていると言えます。

また、「オリジナルPV付」の動画が増えたこと、ツイッター上で「ミックスする人、マスタリングする人募集」といったツイートを目にするなど、動画として音楽としてのクオリティが上がっていますが、そういう動画ばかりになっているというのは懸念でしかありません。

全体的な底上げがされれば、コンテンツに触れる側としては嬉しい限りでしょうが、ボカロ曲を作る側からすれば、徒に敷居を上げる事にほかなりません。そうすれば、ゲーセンでドラムマニアで簡単な曲を叩きたいと思っている人が、先客の高速譜面でレベル90台の曲を叩いている光景を見るかのごとく、趣味で曲を作る側としては萎縮してしまいますし、投稿したにしても、他の曲と比べて劣ることに、心ない誹謗中傷がコメントで流れてくるかもしれません。そうなれば、果たして趣味を楽しめるでしょうか。

プロになりたかったけどなれなかったという人が、自分の知識技術を手に趣味の世界に乗り込むことで、アマチュア界隈を荒らすことになりかねない…誰彼問わずカネさえ払えば知識技術を提供するスタンスでは、プロになれなかったクリエイターをイタズラに野に放つことにつながりかねません。もちろん、彼らに「いい仕事があるんだ、やらないか」と声をかければ、たちまちに無償依頼に応じる奴隷の完成です。

ただより高いものはない

じゃあどうすればいいんですか?

この答えは単純明快です。

 

プロを育てるのであれば、無償であるべきです。

但し、プロになりたいと切望する人にだけ、その知識技術、そして心を与えるべきだと思います。

 

つまり、プロになって仕事をしたい、そういう人を事前に選ぶという審査が必要になると思います。

どんなにお金を積んでも、決して手に入らないプロの何たるか。もちろん、プロになって仕事をしたいと思い門を叩いた時点で、逃げることは許されない、去る時はその知識技術をばらまかないなど約束させるなど、しっかりとした確約を交わす必要があります。しかし、その確約は同時に、彼を1人前のプロに育て上げ、業界を担う存在にする…プロになる気概があり続ける限りは、彼の未来は保証されるべきでしょう。

プロになるとは、プロとして食っていく、プロを「食業」にし、そこに骨を埋める覚悟を持つこと…プロクリエイターとして会得した知識技術は、いわば会社内の機密情報と同じです。これらを拡散することは機密漏洩に等しいことです。

プロになりたい人を育てる風潮へ

プロを目指す人が勝手にプロの技術を学んで、そこからピックアップするよりも、最初からプロになることありきで人を育てることの方が、プロとしての実力もさることながら、プロとしての心構えを持った人を育てることができるでしょう。特に「心」は大切で、知識技術だけがあればプロになれると思う人と、プロとしての心構えを持った人とで大きな差を作る要因となります。知識技術だけがあれば問題ないと思う人、業界について考え行動する人と、果たしてどちらが、業界を守る事ができるでしょうか。

 

個人的には、プロのクリエイターを目指す人を集め、寝食を支援し、知識技術、そして心を教える事のできる、クリエイター版「トキワ荘」を作りたいと思っています。

クリエイター業はお金がかかります。制作機材や防音室などの設備を揃え、プロを目指す人に自由に使えるよう提供しつつ、個々の技能を高め、何よりクリエイターの持つべきプロとしての心を教える…それが実現できたらと思います。もちろん、音楽だけでなく、イラスト、シナリオなどの他業種のクリエイターも同居させることで、業種を超えての協力体制を作ることも画策しています。

 

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プロがプロたる理由…それが求められる時代。

 

クリエイターを、「食業」に…