ソフトウェア音源の購入は授業料だ
皆さん、おはようございます。
11月末のブラックフライデー、年末年始のニューイヤーセールなど、ソフトウェア音源が普段より破格で販売されている状況で、衝動買いをされた方は多いのではないでしょうか。
値段が下がるということは、単純に購買のしきい値が下がること、逆をいえば、安くなって求めやすくなったことで、潜在的な購買意欲を刺激することにもつながります。
しかし、こんな経験はないだろうか…
ソフトウェア音源を購入したが、結局最初は使ったけど、以降使わなくなって作業機の肥やしになった…ソフトウェアプラグインを購入したが、使わなかった、使えなかった、使う気が起こらない…
結果論で言えば買うだけ無駄、と言い放つことはできるかもしれません。
しかし、果たしてそれは、本当に無駄100%だったと言えるのでしょうか。
ソフトウェア購入は授業料だ
ソフトウェア音源を購入したが、使わなくなってしまった…
プラグインソフトを購入したが、使わなくなってしまった…
なぜこういうことが起こってしまうのか…考えられる要因としては
安かったから買っただけで、そもそも必要性がなかった
セールを打ち出すことで、普段は2・3万するソフトウェアが、急に4桁台に降りてくることがよくあります。そしてついつい購入ボタンをポチってしまう…特にシンセ音源ではそれが顕著で、安いから買ったを繰り返していると、あっという間にサードパーティ製プラグインの欄が目いっぱいになってしまいます。
購入した理由は「安かったから」であり、購入した理由がどうしてそのソフトウェアを使って楽曲制作することにつながるのでしょうか。
持っておきたいと思っただけで、それを使うフィールドにいなかった
例えば、和風楽器。
和太鼓、能の掛け声、尺八…こういう日本楽器の素材をもっておけば、よさこい音楽や正月にぴったりなBGMを制作できるでしょう。特に日本ではそういう音源の需要はそれなりに有ります。
しかし、そういう楽曲を作れるようになったから、そういう楽曲を作ろうというモチベーションになるでしょうか?おそらく、普段からよく作っている得意分野ばかりを作り、こういう楽器が使われる曲は作ろうという気分にはならないでしょう。
でも、楽曲制作者である以上、どんな楽曲も作れるようにしなければならない…そういう思いから購入に至る、それは否定できません。
勧められたが、自分の制作スタイルと相性が悪かった
オーケストラ主体で作る人にKOMPLETEを勧めるようなものです。もちろん、全部が無駄というわけではありませんが、オーケストラを作りたいというのであれば、別の音源を導入するのが先でしょう。
情報不足で思っていたものと違ってた・質は良いが致命的な欠点がある
キースイッチに対応していない、発音数がやたらと多い、音素の中に明らかにあっちゃいけないエラーが有る、一部コントロールチェンジが効かない、再生中に頻繁に処理過多で止まる…最悪、音源のロード中にDAWがハングする…
例え出音が良くても、システム的な不具合に苛まれてはモチベーションを無駄に削るだけです。そうなれば、使わなくなるのも無理もありません。
未知の知識技術に憧れていた
本記事の本編です。
音楽を作る人にとって、おそらく以下に挙げるものが気にならない人は居ないでしょう。
- MS処理
- アナログの歪み(サチュレーション)
MS処理
MS処理は、ステレオ出力を、ミッド(センター)成分とサイド成分に分け、個別処理することでマスタリングをより良いものにすることができる処理ですが、主にステレオワイドな楽曲になり派手さが増すことから導入するケース、それを売りに紹介しているページが検索でヒットすることが多いです。
MS処理をすると、ステレオワイドな感じになります。例えるなら、スピーカーLRの外側からも音が聞こえるようになる感じです。特に中央に固まった楽曲は、それだけでアマチュア臭いと思われることもあるので、MS処理を憶えてしまうとそこから脱却できるというのもMS処理に拘る人が多い理由の一つと思われます。
しかし、MS処理で音がステレオワイドになるのは、サイド成分を強めること…言い換えれば、ミッド成分、つまりセンターに有る音に逆位相の音をぶつけて相対的に弱らせることで体現するため、思いっきりステレオワイドにすると、しっかりと聴こえて欲しいミッド成分…主にキックやベース、ボーカルと言ったパートが引っ込んでしまったり、楽器間の距離が狂ってしまうなど、楽曲の破綻につながりかねません。なので、現在はマスタリングの際にMS処理を施す作り方をせず、ミックスの段階でステレオワイドを調整するようにしています。
アナログの歪み
最近アナログテープの音が人気という声を聞きますが…
アナログの歪みというのは、音が太く、アナログ独特の暖かさを感じる音質になることから、今日のミックス現場でも使われています。特にソフトウェア音源だけで制作する場合、出音がきれい過ぎる(綺麗すぎ故に打ち込みだとバレる)ため、アナログ感に欠けることを懸念する人もいます。
アナログの歪み(サチュレーションともいいます)を付加するソフトウェアプラグインを使えば、アナログの質感を楽曲に導入することができるでしょう。でも正直なところ、アナログの歪みがほしいと思っている人は、アナログの歪みが自分のミックスの質を大きく向上してくれる魔法の粉と思っているかもしれません。わたしがそうです。
サチュレーション系を導入してみました
というわけで、年末にサチュレーション系プラグインを導入してみました。
みんな大好きWavesの、Kramer Master Tape
昔の楽曲制作の現場で、マスター音源を磁気テープに記録していた、その記録の際に発生するアナログ歪みを再現したプラグインです。アナログの歪みを付加するだけでなく、ノイズやフラッター(ビブラートのような震え)、テープディレイがあるなど、サチュレーション系のプラグインとしては代表的なものといえるでしょう。
サチュレーションプラグインとの相性が良いのは、アタック感がある楽器。
特に、ドラムやベース、ギター音源については、荒々しさにも似た質感が生まれ、バイパスしたときと聴き比べると一目瞭然です。オーケストラ楽器については、トランペットは一層攻撃性が強く、バイオリンなどのソロストリングスは弦のザラつきが増したような音に仕上がります。アナログの質感を得られるので、ソフトウェア音源と生録を混ぜる場合に雰囲気を馴染ませる効果も期待できるでしょう。EDM系のトラックとも意外と相性が良いかもしれません。
一方、アタック感の少ない楽器…ストリングスアンサンブルや木管楽器については大した効果が得られず、むしろ響きが汚くなってしまい逆効果です。また、アナログの歪みは音を豊かにするとはいいますが、あくまでも歪みに過ぎません。歪みを強めればホーンスピーカーから大音量で音を出したかのように音楽的ではない聞き苦しい歪み方をします。
というように、「アナログの歪みは、いいぞ」と思っていても、実際に導入してみると思ったほど華々しくなかった、というのがわかりました。仮にこのまま使わなくなったとしても、アナログ歪みへの憧れを断ち切るために購入した、と考えれば、決して無駄ではなかったと言えるでしょう。
これまで、幾つものソフトウェア音源やプラグインを導入してきましたが、当然ながらその中にはお蔵入りしたソフトウェアもあります。しかし、使ってみた過程を経て、改めてこれまで自分が使っているソフトウェア音源の良さに気づいたり、新しい表現方法を見出したりすることで、今日の楽曲制作に貢献していると考えれば、高い買い物でこそあれ、決して無駄だとは言い切れないものだと思います。
手に入れたいものが手に入らない、それが自信の喪失につながって創作意欲をマイナス方向に引っ張るのであれば、いっそのこと手に入れてしまい、自信を喪失する理由を消し去ったほうがずっと得です。
買わずに後悔するなら、買って後悔しろ。
ソフトウェアを購入した分を授業料と考え、後学のためにすればいいのです。
もちろん、いいソフトウェア音源やプラグインソフトにめぐりあい、それを手に入れることにつながるに越したことはないのですが。