皆さん、おはようございます。
先日、サウンドクリエイターとしては見逃せない話題を目にしました。
人工知能が作曲をするツールの台頭
これについては結構前から研究が進んでいたようですが、ここ最近になって日の目を見るようになってきました。曲調やジャンルを決めれば、AIが勝手に楽曲を作るというものです。当然ですが打ち込みですね。
これについて、制作した楽曲は著作権フリーで商用可能と謳っています。
人工知能はクリエイターを脅かすか
指定したジャンルで、指定した長さで、指定した楽器編成で楽曲を自動生成してくれる…これについて、「こんなことをされたらクリエイターが商売上がったりになる!」という声もチラホラ聞かれます。
しかし、人工知能によって楽曲を制作するツール、それは現段階では脅威にならないものだと判断します。
人工知能はクリエイターを脅かさない
そう結論付ける理由は以下のとおりです。
サンプルの貼付けから脱却できない
ギターのカッティングのループ素材、ドラムの8ビートパターン、ピアノのバッキングなど、元になっている素材を組み合わせるので、ある程度慣れてくると人工知能が作った曲だとバレてしまうでしょう。
もちろん、ラウンドロビン(同じ音を鳴らす場合に同じ音を演奏した別のサンプルを再生する機能)などのランダム性を使えばある程度誤魔化しは利きますが、その分だけ素材が必要で、内部に抱えるデータ量が多くなってしまう懸念はあります。
自由度が低い
ドラムのキック1つとっても、「ドフッ」「ドン」「ガツッ」など、その質感は様々です。ギターにおいては、歪み系でもクランチ寄りなのか激しいディストーションなのか、楽曲によって変わってきます。
これらを調整するには、サンプル自体を多く用意しなければならないでしょう。当然、パフォーマンスに影響しますし、素材の音質を調整しよう、というのは、音楽知識がない人には思いの外敷居が高いものです。
どういう表現が最適かを機械が判断できない
譜面上で1小節4分音符4つのメロディラインも、アレンジャーが10人いれば10通りの意見に分かれるでしょうし、ジャンルやテンポが変わることでその意見も更にバラけてくるでしょう。感性がバラバラな楽曲制作において、万人によくウケる表現を選び出すことは不可能と言っても過言ではありません。
ボーカロイドも、ベタ打ちでは音節がとぎれとぎれだったり発音が悪かったり、手を加えて調整する必要が有ります。詰めれば詰めるほどその仕上がりは良くなりますが、表現を追求するには、まだ人の手が必要不可欠だといえます。将来的には、ベタ打ちでしっかり歌ってくれるように進化することを願っています。
マスターピースの劣化コピー止まり
クラシカルな曲を作って欲しいとオーダーしても、とにかく難易度が高いです。
フルオーケストラであれば、どのパートに演奏させるか、どのパートが和音を担当するか、そういうことを決めなければなりませんし、和音を演奏するにも、アルペジオなのか刻みなのか、駆け上がりを入れたいなど、現状AI任せでは作れそうもありません。
「ベートーヴェンっぽく作って!」と指示すれば、聴いた感じベートーヴェンの曲を作ってくれるかもしれませんが、「ベートーヴェンっぽい曲」からは脱却できないでしょう。特にメロディだけ変えて「ジャジャジャジャーン!」って冒頭に持ってこようものなら、それはベートーヴェンっぽい曲ではなく、単なる名作のパクりと後ろ指さされて終わるのが関の山です。
せいぜい音楽版いらすとや止まり
現状ではAIが商業音楽を担う、ということは非常に考えにくいです。
その理由は前述したものもありますが、大きな要因としては音楽は人に感動をもたらす、感受性に作用するものであるからだと思います。感受性に作用するものは、制作者自身が感動を覚えないと感受性があるとは言えません。果たしてAIに感受性を論理的に感じ取る方法があるのでしょうか。
もし人工知能が楽曲制作のクリエイターを脅かし、脅威であると感じるのであれば、申し訳ないですが、いらすとやにおまんまを食い上げされるイラストレーター程度でしかないと思います。むしろ個人的には「自身のプロモーションのためにロイヤリティフリーの楽曲を無料で大量にばらまく」方が、音楽素材は無償で手に入るものという印象を与え、ダンピングを助長するなど、そちらのほうが現在進行形で脅威といえます。
人工知能と仲良くなる未来を
なぜ人は機械を発明したのか。
当然、人の仕事を手伝い、傍を楽にさせる(働く)ためでしょう。
おそらく、機械が発明された当時も、機械がこれから担う仕事を担当している人から「機械の導入は人から仕事を奪う!」と反発の声が上がったことが予想されます。
しかし、今日では機械の存在は欠かせません。正社員でもアルバイトでも、機械の恩恵を受けて仕事をしています。機械の導入により仕事を奪われたと路頭に迷うケースは、知りうる限りではありません。
その機械に当たる存在が、AIに置き換わっただけ。
そしてAIと一緒に仕事をする未来がやってくる、時代の過渡期にある、そう思っています。だったらAIを仕事現場から追放するのではなく、AIを活用して、傍を楽にさせればいいのです。
最高のアシスタントが生まれることを願う
ソフトウェア音源なら、ベタ打ちしたフレーズを感情豊かに適切なアーティキュレーションを当てはめる…リアルタイム入力なら入力ミスや遅れ、意図しないベロシティのぶれを自動的に補正してくれ(クオンタイズじゃないです)、なおかつ人間が演奏した感を損ねない…ミックスやマスタリングであれば、被った帯域をスッキリ、音圧をしっかりと上げるためのEQやコンプの使用…これらが実現すれば、サウンドクリエイターは楽器演奏をそのまま録音して使うかのように、微調整に時間を使う必要がなくなるでしょう。
それだけではなく、クリエイターの作業内容やジャンルを分析し、データとして学習させれば、「こういう感じでリズムを作ってくれ」とAIに指示すれば、クリエイターの味や癖を理解してリズムを構成してくれるでしょう。もちろん、譜面を画像やPDFとして取り込むことで、それをデータに起こしてくれるようになれば、フルオーケストラ譜面の打ち込みもあっという間になるでしょう。
今のところ、DAWは楽曲を制作するための道具でしかなく、お手伝いをしてくれる人はいません。しかし、AIが制作を手伝うようになれば、良い楽曲が素早く制作できるようになり、クリエイターに経済的時間的な余裕が生まれることは十分予想できます。
そのために、AIを使い、AIを最高のアシスタントにする、そんな時代の到来があって欲しいと、願っています。
仕事を奪うから脅威と思い敵対する心理…
それはAI相手でも人相手でも同じだとは思いますね。
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