クリエイターを、「食業」に。

サウンドクリエイターとしてフリーで活動する楽曲制作者、NR-Takaの、クリエイター問題に対してあれこれ考え、書き連ねるブログです

ストリングス音源探訪の旅

皆さん、おはようございます。

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ストリングスというと、バイオリンやビオラ、チェロ、コントラバスと言った楽器の総称…表情豊かな表現ができ、ボーカル曲に劇伴音楽など、音楽制作では欠かせない楽器です。

楽曲制作の際も、ストリングスの録音…はいかんせんコストが高くついてしまうので、必然的にソフトウェア音源を使うのですが、ソフトウェア音源も近年はサンプリングした音素を使った、リアリティの高いものが多く、パッと聴いた感じ違和感のないものも珍しくはありません。

しかし、その種類は様々…そして、ストリングス音源については、数年前からその追求が続いています。

 

もちろん生録に勝るものはないのですが、生録をする前のラフスケッチにもストリングス音源を使わないことはないので、結局のところ必要ではあります。

おことわり

本記事は筆者の主観と独断と偏見が含まれています。

ソフトウェア音源の良し悪しなどは人によって判断基準が異なるので、あくまでも1サウンドクリエイターが勝手に作った記事であること、予めご了承ください。

ストリングス音源の種類

  • ソロストリングス
  • チェンバーストリングス(Vi1:6~8ぐらい)
  • オーケストラストリングス(Vi1:14ぐらい)

ソロストリングスは言わずもがな、チェンバーかオーケストラルかで、ストリングスアンサンブルでも雰囲気が変わってきます。当たり前ですが、人数が増えれば増えるほど、ステレオ感が増し豊かな音になる反面、擦弦のニュアンスやアタック間は劣ります。

ストリングス音源のタイプは2つ

楽器そのものをサンプリングしたもの

楽器の近くにマイクを置き、収録した音素を使っています。

主にソロストリングス系の音源がこれに当たります(例外あり)。

長所

・クロースマイクで集音しているので、音の輪郭はっきりしている

・リバーブが選べるので、距離感を調整しやすい

短所

・楽器のパンを振った時に「バーブごと傾く」ため、パートごとに分離感がある

 「第1バイオリンが舞台左手に配備されている」ではなく、「第1バイオリンが中央に配備された演奏を左に傾けている」ニュアンスになる。

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ホール収録を活かしたもの

ストリングスセクションをコンサートホールに配備し、クローズ、サイド、アンビエントなどホールに設置した複数のマイクで集音する形式。主にオーケストラルなストリングスがこれに当たる。

長所

・臨場感については楽器やセクション1つをサンプリングした音源より勝る

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 第1バイオリンを扱う場合も、「第1バイオリンを舞台左に配置した時の音を収録」することになるので、「第1バイオリンを中央においてリバーブを掛けたものを左に傾ける」とは違った、リアリティのあるリバーブ感が得られます。

・マイクのミックスで距離感を調整できる

 クロース、ホール、アンビエントなど、距離感にあったマイクの音をそれぞれミックス調整することで、クロース多めなら輪郭のある音、アンビエントたっぷりなら大編成オーケストラのような迫力ある音に調整することができます。

・リバーブ感が非常にリアル

 もちろん、リバーブ感に定評のあるホールで収録したので、上質な現場の空気感を利用できる点が大きいです。

短所

・パンが調整できない

第2バイオリンが第1バイオリンの隣なのか、一番右側なのか…チェロが一番右側ではないなど、オーケストラ楽曲によってストリングスセクションの位置が変更されることはよくあるのですが、ホール収録系の音源の場合、ポジション固定なのでパンの変更には工夫が求められます。大体はシンフォニー配置(Vi1・Vi2・Va・Vc・Cb)ですね。

・つまり、ソロで運用するのには不向き

バイオリンメインの曲を作ろう、と、ホール収録型のソフトウェア音源を使うと、トラックのパンがセンター定位でも容赦なく左側から音が出てきます。そのため、センターに定位させるだけでなく、不自然にならないようにステレオ感を修正する必要も求められます。

モノラルにすればいい…?せっかくステレオで録っているのにそれを潰すなんてもったいない!

・複数のマイクを使うので、当然重くなる

1本のマイクで録った音、6本ぐらいで録った音のミックス、どちらが処理にCPUを食うかは言うまでもないでしょう。

 

それでは、ストリングス音源の独断と偏見に基づいたレヴューを始めましょう。

(筆者が所持していない音源については、音源紹介のページや楽器店での試奏をした経験を元に判断しています)

ストリングス音源の独断と偏見によるレビュー

Vienna系

(Vienna Instruments)

筆者が初めて購入したサードパーティ製オーケストラ音源。なんだかんだで10年近くのお付き合いになります。

長所は、やはり音素の良さ。

バーブがキレイに乗りやすい音素は、ソロストリングスも小編成のストリングスのような豊かな響きになりますし、高音域もピッチがずれることがなく綺麗に伸びてくれます。また、ドライな音質で収録しているため、リバーブで距離感を調整することができますし、輪郭が見えやすいのも大きな長所の1つです。オーケストラだけでなく、ポップスでも十分即戦力になるでしょう。

短所は、専用リバーブがほしいというところ。普通のリバーブだと臨場感では他のソフトウェア音源に勝つのは難しいでしょう。あとは、VSEなどの廉価版の場合、第1・第2バイオリンの区別がないので、第1バイオリンと区別させるには工夫が必要となります。

これについてはMIRxなどの専用リバーブ(別売)がないと、オーケストラをつくった時にリバーブやパンニングで工夫することが必要となります。そうしないと、ストリングスセクション感で隙間が空いた感じを受けます。

ソロ、チェンバー、オーケストラル、大編成と揃っていますが、買い揃えるとなると数十万かかる点が欠点…しかし、逆に金をかければしっかりと応えてくれる、老舗ブランドとしての風格はあると思います。

 

nrts-creator.hateblo.jp

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EastWest Hollywood Strings

(Playエンジン)

オーケストラストリングス。

こちらも老舗ブランド、EastWest社が出している高級なオーケストラ音源。

オーケストラ楽器を集めたQLSOにもありますが、ハリウッドシリーズはQLSOよりも音素がいい一つ上の音源として位置づけされています。

長所:臨場感のある音や表現としては最高クラス

ホール収録型で、複数のマイクポジション、ソフトウェア内のリバーブによって、距離感や臨場感を適宜調整できます。

※ハリウッドシリーズにはゴールドとダイヤモンドの2種類がありますが、ゴールド版では指揮者ポジションのマイクしか選べません

短所:重い

読み込みに時間が掛かる、読み込みの最中や打ち込みの最中にDAWを巻き込んでハングアップするなど、制作する上で致命的な欠点を抱えています。

また、キースイッチが使えないため、複数のアーティキュレーションを読み込ませ、それをmidiチャンネルで分けて用いることになるのですが、midiチャンネルについてはピアノロール上では区別がつかないため、複数のアーティキュレーションが入り交じる演奏をしている場合、入力が非常に面倒です。

音がいいのは確かですが、Viennaで作ったものと比べても大差がないので、だったらViennaでいいじゃん…ということから、現在はお蔵入りしています。

Cinematic Studio Strings

(KONTAKT)

オーケストラストリングス。

個人的に注目している音源がこれ。

インタフェースが見やすい、音がいい、キースイッチが使える、ホール収録型なので臨場感があると、Viennaとは別に持っておきたい音源だと思います。

欠点を上げるなれば、メーカーが出しているソフトウェア音源が少ないため、これを使ってフルオーケストラを作るとなると、別メーカーの音源と組み合わせる必要があるので、リバーブ感の調整に難儀することがあるでしょう。

Embertone系(Friedlander Violin)

(KONTAKT)

ソロストリングス音源。

キースイッチが使える、ドライで擦弦の質感が感じられる、何よりバイオリン~コントラバスまで揃えて4万円台後半(Sonicwire調べ)というコスパの良さがあると思います。

Spitfire系(Symphonic Stringsなど)

(KONTAKT)

ラインナップとしては、ソロ、チェンバー、オーケストラルと揃っている。

高級ストリングス音源の1つ。確かに音は良い。ホール収録型なので臨場感はあるし、マイク位置を調整すれば調整も可能。

但し、高い、重い。

あとは公式ページがすごく味気ないしわかりづらい。

 

nrts-creator.hateblo.jp

 

Chris Hein系

(KONTAKT)

ソロストリングス音源。

オーケストラ楽器ではこちらも老舗。

ストリングスだけでなく金管楽器木管楽器についても取扱をしている。

キースイッチ対応は言わずもがな、質感があり、オーケストラだけでなく、ポップス系の運用でも十分戦力になる。

その分、ソロバイオリン音源の中では値段は高め。ソロで運用するのであれば持っておきたい。

Virharmonic系(Bohemian Violinなど)

(UVI Workstation)

個人的に注目しているソロストリングス音源。

特徴としてはプレイアブルなパフォーマンスをするところ。鍵盤上でリアルタイム入力をしても、キースイッチと関係なくアーティキュレーションを自動で選び、エクスプレッションに関係なく起伏に富んだ演奏をしてくれる。音はクラシカル寄り。

但し、ショートノートについてはリアルタイム入力後、キースイッチで調整する必要があり、入力したノートが後のノートと重なっているかいないかでも奏法が変わってくるので、微調整をする上では癖がある音源とも言える。また、音源のボリューム自体が小さく、トラック側の方で音量を稼いでやる必要がある。

アップグレードをするごとに購入価格が上がっていくが、購入した人は無償でアップグレードできるので、初期バージョンから持っている人は、理論上初期バージョンの最安値で最終バージョンを使えることになる。良く言えば伸びしろが十分に残っているということだが…開発現場が相当遅延している点が懸念される…頑張ってくれ。

UVI系(IRCAM Solo Instrumentsなど)

(UVI Workstation)

UVI Workstationというマルチサンプラーを使った音源。

ストリングス音源には、上記タイトルやOrchestral Suiteがある。特にOrchestral Suiteは、総合オーケストラ音源でありながら種類は多い(クワイアやパイプオルガンまである)けど値段が安く、コスパの良さがある。

ただ、リバーブが少ない際に音のつなぎが気になる点、特に高音域でそれが顕著になるので、そこは値段相応か…といったところ。

Solo Instromentsは試聴段階では音が良く、購入を検討しようと思ったが、7月に東京に出向いて試奏した際に、操作性が良くなかったこともあり購入を見送っている。

Samplemodeling系(the Violaなど)

(SWAM Engine)

ソロストリングス音源。個人的に注目しているブランドの音源。

the Violinを実際に購入して使ってみましたが…奥が深く難易度は決して低くはないですが、ポストLASS(後述)となりうるストリングス音源ではないかと思っています。

運弓の方向、ボウイングの強さ(ベロシティではない)、音の立ち上がりの強さ、弱音器のオンオフなど、細かな設定ができるのもさることながら、ピッチベンドが効き、モジュレーションホイールでビブラートを調整できる(意外とモジュレーションホイールでビブラートを調整できる音源って最近少ないと思う)など、midi世代の直感的な操作に忠実でありプレイアブルな打ち込みも可能です。そして何より…インストーラが非常に軽い(21MB)という、昨今のソフトウェア音源とは思えない軽量さです(動作が軽い、という意味ではない)。

音質としては、the Violinの音はVSLのSolo Violin2と似たような感じで、オーケストラルなものではなく、楽器そのものに近いニュートラルな音質。バイオリンソロやポップス系、ボーカル曲のバックオケに十分使えるでしょう。

今回注目したその理由としては、ソロストリングス音源は総じてクラシカルよりな音色が多く、ポップな運用をするにはクラシカルな綺麗で整った音よりも、粗くもバイオリンそのものの質感のある音がほしい。このブランドの音源には楽器のモデリングを追求するという、クラシックではないニュートラルなコンセプトがある、そう思ったからです。

但し、ビオラ、チェロが揃っているものの、あくまでもソロなので、ストリングスアンサンブルの豊かな空気感を求めるとなると選択肢からは外れるでしょう。

Xsample chamber ensemble

(KONTAKT)

ソロストリングス音源

発売当時安かったから買ったけど、結局いいところがなかったな…

KOMPLETE収録系

(KONTAKT)

KOMPLETE11からオーケストラ音源を収録するようになったが、バイオリンの高音域のピッチが不安定で音質も良くなかった。KOMPLETEはひとまずどんなジャンルでも作れる反面、生楽器系については器用貧乏だと思うところはある。

 

どの音源でもそうだけど、スタッカートなどの擦弦感が強い音や、チェロやコントラバスの低音域はリアリティがあるように聴こえやすいもの。ストリングス音源の質を見極めるには第1バイオリンの高音域が綺麗かどうか、にかかっていると思う。

LASS

(KONTAKT)

ストリングス音源探訪という沼に落とした元凶

擦弦感のある、クラシカルではない質感のあるソロストリングス音源がほしい」という思いを抱いてた時に出会った音源。言うまでもないがすべてのストリングス音源の中で頂点に立つと言ってもいい。ソロストリングスだけでなく、アンサンブルも使える。

やや粗めの音は、人を選ぶがリアリティを感じさせる。目を閉じれば、そこでバイオリン奏者が演奏しているかのようだ。ほしいと思ったが、致命的な欠点が立ちはだかった。

キースイッチが使えない?そんなの些細な問題だ。

とにかく…値段が高い

サウンドコンテンツ(音素)だけで15万オーバー…しかもソフトウェアを購入してもあるのはサウンドコンテンツだけ。電車を買ったはいいが線路が敷設されてないという状態。

KONTAKT上で動かすためのライブラリファイルが別売りとなっている。購入するにはクレカが必要…しかもライブラリファイルも高い。実際は都合25万ぐらいが必要になる。

資金面、購入における障壁が大きく立ちはだかった…故にポストLASSとなりうるストリングス音源の探訪が始まったのだった。

ポストLASSとなりうる音源はどれだ?

この中で考えられるのは以下の音源ですね。

Chris Hein系

sonicwire.com

Samplemodeling系

Sample Modeling | SWAM S engine

www.minet.jp

安定のChris Heinか、革命児のSamplemodelingか…

クラシック系であれば、Viennaや他オーケストラ系楽器を使うなど、ストリングス音源1つとっても音質も適した用途も違うもの。持っておけば細かいところにも対応はできるでしょう。

もちろん、他にも戦力となるストリングス音源があるでしょう、新しい情報にも気を配りながら、良いストリングスサウンドを追求していきたいものです。

参考記事

 

nrts-creator.hateblo.jp

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