クリエイターを、「食業」に。

サウンドクリエイターとしてフリーで活動する楽曲制作者、NR-Takaの、クリエイター問題に対してあれこれ考え、書き連ねるブログです

絵師界隈の「~させていただきました」実態調査

皆さん、おはようございます。

 

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幾つかブログ記事を書いてきて、その中でも人気のあるのがこちらの記事

 

nrts-creator.hateblo.jp

 これについては、音楽、イラスト、声優、歌手…様々な界隈で「させていただきました症候群」のようなツイートを目にすることができますが、今回はイラスト界隈…7月15日夜から7月17日朝にかけてホットとなった、姫繰三六五 公式ウェブサイトについて、そのツイートから読み取っていこうと思います

 155/187

さて問題。

こちらの数字は一体何でしょうか。

 

答えはこちら。

 

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ツイッター上で #himekuri356 -RT で検索し、2016年7月15日夜から、7月17日10:00まで、イラストレーターによるツイートをサンプリングしたものです。ちなみに-RTが付いているのは、これをつけないと絵師のツイートだけでなく、絵師のツイートをリツイートした場合も検索結果に引っかかってしまうためです。

で、先に挙げた155/187という数字は、当該企画参加のイラストレーター367人の中で、日めくりカレンダーの対象となる365人のうち、担当日が確認できるツイートをした人が187人、そのうち155人が「参加させていただきました」「~日を担当させていただきました」「描かせていただきました」というツイートをしていたという結果です。実際は日時が不明だけど参加したというツイートがあったり、単に見落としていたりすることもあるので誤差はあります。

この結果や、検索結果から読み取れることをまとめていこうと思います。

パワーゲームなのか

いわゆる業界慣習として、仕事をしたことをツイートする場合は、~させていただきました口調にしなければならないというルールがあるのかというと、これは簡単に否定できます。

まず、イラストレーター界隈に、彼らを管轄し、仕切るような業界がありません。ツイートを見た感じ、「絵師の名前+夏コミサークルスペース」というケースが多く、ネームバリューの高い絵師が勢揃いしています。おそらく、企画者が直接絵師にオファーしたのでしょう。公募するとなれば選考しなければならないので、とてもじゃないがやってられません。

山本和枝氏や珈琲貴族氏など、有名イラストレーターの中で「~しました」というツイートをしているのを見ますが、実力があるからさせていただきました口調にならない、ということは考えにくいです。有名ではない時代からさせていただきました口調を使っているのであれば、有名になってもなお使い続けるほうがごく自然ですし、それに、有名になった=>させていただきました口調から脱するとして、果たしてどこを明確な閾値と定めるでしょうか。

謙譲語の1つとして使っているのか

先の記事でも書きましたが、謙譲語には、自分の行動を謙る際に「~致します」「~させていただきます」という2種類の書き方があります。前者は相手から見て自分の行動を謙る際に、後者は相手に許可を求める意味合いを持って使われますが、これを書き間違えるというのも考えにくい話です。

コミケにサークル参加します」というケースにおいて、「コミケにサークル参加いたします」という表現は見られるのに、「コミケにサークル参加させていただきます」という表現はまず見かけません。もし謙譲語の1つとして意味を理解せず使っているのであれば、サークル参加させていただきますという使われ方も目にするはずですが…

「恐れ多くも仕事しました」という意味合いでの使用か

やはり、可能性が一番高いのはこれだと思います。

この企画では、有名イラストレーターを365人+α集めたという豪華さを売りとしています。つまり、その中に選ばれるということは、世間が彼の実力や実績を認めたという証明であり、絵師として名誉であると言えるでしょう。だから、「選んでいただきありがとうございます」という気持ちを持つのは当然のことであって、これが否定されることがあってはなりません。

しかし、それをツイッターなどで公言することの問題点は、誰に対して発信しているのか、発信している相手が謙るべき存在なのか、そこが矛盾しているためです。

「恐れ多くも仕事を振っていただきありがとうございます…」その思いはよくわかりますが…

慇懃無礼が過ぎる印象も…

それが行き過ぎ、あまりにも慇懃無礼(いんぎんぶれい)な印象を与えているのが大きな問題でしょう。傍から見れば、「有名イラストレーターに軒を連ねるなんてすごい!」と名誉に思われることでありながらも、「自分のようなものに仕事を与えてくれてありがとうございます。恐れ多くも仕事に携わらせていただきました」という無用に謙る態度が、それに選ばれなかった同業者からしてみれば、嫌味とも取られかねません。しかも、「他の有名絵師と肩を並べるなんて…」とむやみに自分を卑下しているのであれば尚更でしょう。

出る杭が打たれるのが怖い?

日本では昔から「出る杭は打たれる」という諺の通り、出る杭を見つけようとすると叩こうとする人が少なからず出てきます。特にインターネット上という、不特定多数が情報にアクセスでき、本人に対して意見を飛ばすことができるのであれば尚更です。

堂々と仕事を公言すると、その表現を不快に思う人が攻撃的な反応を示すこともあり、場合によってはつきまといにまで発展することがあります。特にある程度名が知れている人の場合、活動状況を把握するのは容易で、活動当日を狙ってくるケースもあるでしょう。

あえて低姿勢で、できるだけ頭を低く…というのは、そういう不特定方面からの口撃に対して自己防衛するという意味合いもあるでしょう。とはいえ…

あまりにも頭が低すぎる。

結局、傍から見ていると、企画者に対して有名イラストレーターが深々と頭を下げているという構図が見えるわけです。これが、クライアントがクリエイターを見下す構図を作るのではないかと懸念しています。

これは決して「クリエイターがいなければ企画自体が成り立たないのだから、クリエイターはもっと頭が高くていい、クライアントより偉いと誇示せよ」と言っているわけではありません。美麗なイラストの制作することを生業とし、しっかりとしたいい作品を作れる人が、胸を張って堂々と自分の仕事を誇示できないという、その風潮に対して一石を投じるものです。

「~という作品の原画を担当しています」(丁寧語)もしくは「~という作品の原画を担当しております」(謙譲語)という表現で何ら問題ありません。

 もっと強くあって欲しい

クリエイターがいたずらに自分を卑下することが、クライアント優位の立場を作り出し、クリエイターの買い叩きを助長するという可能性は否定できません。しかし、クライアントからすれば、作ってほしいものを作ってくれるクリエイターがあって初めて、クライアントは作品を完成させることが可能となります。

確かに仕事に対して、クリエイターのほうが圧倒的に多い、供給過多な感は否めません。それ故に、とにかく自分を殺して下手に周り、なんとかして仕事を手に入れたい…そういう思いもあると思います。

しかし、今一度踏ん張って、自分の仕事をアピールして欲しいと思います。

商売とは、頼む側、頼める側ともに、Win-Winの関係ありきです。それは、クリエイター業であっても同じことです。

買い叩きを防ぐためには、クライアントに「使えそうなクリエイターを選んでもらう」ではなく、「使いたいと思わせるクリエイターを選ばせる」こと、これが大切だと思います。そのために、自分の魅力が高いということを常々アピールしなければなりません。アピールするつもりがなくとも、絵師だったらイラストを、音屋だったら音楽をタイムラインで周知するのも、魅力の高さをアピールすることになります。

人は欲しいと思ったものは、お金を積んででも買います。クリエイター自身に自分の仕事の魅力を見いだせれば、クライアントはクリエイターの魅力を買うようになるでしょう。そのためには、値切りをする余地を与えないことも大切です。徒に「させていただきました症候群」を連発すると、その人の魅力を低め、買い叩きの隙を与えてしまうことにもなりかねないでしょう。

 

情報化時代、1クリエイターの言動が、全クリエイターの鑑となる時代…

特にクリエイターという1自営業者であるなら、尚更その意識が大切な時代であると言えましょう。

もっと胸を張って自分の仕事を誇る、そういうクリエイターが、今後求められてくるのではないかと思いますし、増えてほしいと願うばかりです。