なぜ買い叩いてはいけないのですか
皆さん、おはようございます。
クリエイター問題の最たるものとして、クリエイター(の仕事)の買い叩きが挙げられます。クリエイターに直接投げかけられるもの、クリエイターの実績欲しさに漬け込むもの、ランサー系サイトでの激安案件など…これらはクリエイターを食業にする上では避けて通れない由々しき問題です。
クリエイターからすると、真っ当な報酬を得られなければ、専業で食べていくことはできません。時間、労力、予算…様々なリソースが限られている以上、できる仕事は有限です。恒常的に限られたリソース以上のことをやれば、最悪突然死を引き起こすケースもあるでしょう。それを考えると、真っ当な値段設定を打ち出し、それで案件を成立させることは必要不可欠です。
しかし、買い叩きとも取れるケースは存在します。
今回は、なぜクリエイターを買い叩いてはいけないのか、それをお話しようと思います。
なぜ買い叩いてはいけないのか
日用品や食品の大安売りとは異なる
スーパーではよく、食料品や日用品を特売と称して普段よりも安値で販売していることがあります。それを狙いとして買い物客を集めるというのも理由の1つです。
日用品や食品は、普段よりも安値で販売したとしても、それが理由で品質が下がることはありません。逆に、普段より高値で販売したから品質が上がるということもありません。
但し、安値で販売する理由は存在します。
賞味期限が近い、売上が芳しく無く通常価格では在庫を捌ける見込みが無い、誤って発注単位を間違えて在庫が大変な量になった、季節ものなどで、オフシーズンに入ってしまうと魅力が下がるものなど、採算度外視してでも売り切らないといけない場合など、安売りすることには理由があります。
クリエイター業はサービス業である
しかし、クリエイターへの制作依頼は、作品制作というサービス業です。
サービス業については、値段がそのままサービスの質に繋がると言ってもいいでしょう。格安航空会社(LCC)は、料金は安いですが大手航空会社と比べてサービスの充実差には欠けます。高級ホテルは宿泊の料金は高いですが、ふかふかのベッドに広い部屋、窓から広がる絶景、高級な料理に熟練したサービスなど、高いに相応しい魅力を持っています。
クリエイターの買い叩きは、作品制作というサービス業の質を落とすことにつながります。
買い叩くことの危険
金を払うとは仕事の責任を果たす契約の証
俗的な話ですが、クリエイターにかぎらず、人が働く最大の目的は、金です。お金がないと生活ができません。
面接で社会貢献とか顧客満足を目指すとか饒舌に語っても、それはあくまでも企業面接を突破して採用されたいためで、もし真っ当な賃金を払わないことがわかっていれば、どんなに素晴らしい理念を掲げていても、新規採用者に見向きもされないでしょう。ましてや、不特定多数を雇用するという、契約以外のつながりがないケースが多いのであれば尚更です。
クリエイターにお金を払うということは、クリエイターからすれば「仕事に見合った代価をいただく」ことでありますが、クライアントからすれば、クリエイターに責任をもって仕事を全うさせるということでもあります。つまり、クリエイターを買い叩く、クリエイターに十分なお金を支払わないということは、以下の危険性にさらされると言えましょう。
クリエイターのモラルを削ぐ
先に挙げた通り、仕事をするのはその報酬を得るためです。
クリエイターが求める報酬に満たないのであれば、クリエイターのモラルが削がれるのは当然です。これは別に、クリエイターだけの問題ではなく、社会人でも同じことは言えます。残業が多い、手取りが少ない、サービス残業ばかりある…労働契約を締結した書面とはかけ離れた労働の実情があれば、仕事のモチベーションは下がり、転職を決めた途端に姿を消されることもあります。
当然ながら、クリエイターのモラルが削がれれば、それは作品の質や事務対応のレスポンスへと反映されます。他の制作を請け負っている場合には、そちらを優先して後回しにされたり、やっつけ仕事をされたりなど、ずさんな対応に出くわすかもしれません。
クリエイターの責任を追求できない
もちろん、クリエイターの仕事について不服とあれば、リテイクや修正を要請することもあるでしょう。しかし、クリエイターが提示した金額よりも低い報酬額だったり、あからさまに安い金額だったりした場合、クライアントが買い叩いたことを背景に争うことになるでしょう。特に、ツイッターなどのSNSで情報発信ができる今日において、買い叩きされた始終を公開されたら、クライアントやクライアントの所属する企業、組織の信頼失墜にも及びかねません。
最悪、逃げられる
単純に考えてください。
仕事請負をブッキングして、同じ締切日の仕事が2つ、どれも明後日が締め切り…
しかし締め切りに間に合わせられるのはどちらか片方だけ…
1つは、親切丁寧な交渉でクリエイターの提示金額に応じてくれたクライアント
もう1つは、上から目線でクリエイター提示額の1/5程度の金額で買い叩いたクライアント
この2者を比べた場合、どちらが真っ先に切り捨てられるでしょうか。
単純に考えれば、後者が切り捨てられます。
後者は反故にしても普段の仕事の1/5しか報酬がありません。クリエイターからすれば仕事ができなかったことによる損失額が普段の仕事の1/5で済むからです。そして、きっちりと提示額に応じてくれたクライアントと、買い叩く気満々のクライアント、クリエイターからすればどちらを大切にしたいかという面でも差がでるでしょう。
どうしようも無くなった時に踏ん張ってくれるのか、それとも連絡先を一切破棄してドロンされるのか…そこはしっかりと金銭の授受を約束したかにかかってくると思います。
仕事をしなかったことで損害を受けた、と賠償を求めるケースもあるでしょう。もちろん、不当な金額であっても契約を交わした以上は、契約の不履行はクリエイターの責任です。
しかし、クリエイター側が提示した金額よりも遥かに低い物証があり、仕事の不当な買い叩きであると主張すれば、仮に勝訴しても賠償金額は雀の涙ほど…訴訟準備のコストのほうがはるかに高くつく上、クリエイターを買い叩いた上に仕事をしなかったクリエイターを訴訟で恫喝したクライアントという噂が広まり、今後の仕事が著しく不利になることが見えると思います。それ以前に、クライアントが所属している企業や組織内部において「信頼できるクリエイターかどうかを見抜けなかった方が悪い」で片付けられ、自身の責任問題になるのが濃厚でしょう。
言わずもがな、スケジュール管理をするのも仕事のうちなので、仕事がブッキングした結果、どちらか片方が間に合わないという事態そのものを起こさないようにするのが現実的です。更にを言えば、後者のような買い叩き事案には応じないという方がもっと現実的でしょう。
買い叩きに応じるには理由がある
買い叩きをするという危険は上に述べた通りです。
しかし、買い叩きや無償依頼をし、それに応じるクリエイターもいます…もちろん、クライアントとは何の面識もありません。ではなぜ、彼らは買い叩きに応じてくれるのでしょうか…色々と理由はありますが、その大多数はプロとしての仕事を知らないからと言えるでしょう。
タクシーの運転手は、2種免許を持っています。2種免許は普通運転免許よりもより安全な運転技術や知識を要求され、これを持っていないと営業運転ができません。しかし、車の運転は運転免許を持っていればできますが、運転免許を持っているからみんながみんな安全運転ができる、とは断言できるでしょうか?(本来は安全運転ができるとみなされたから免許を携帯できるはずなんですが…)
それを踏まえて「2種免許はないですが、タクシーの運転手やってます」というタクシーに、乗りたいと思いますか?更にを言えば、「ふぐ調理師免許はないけど、内臓と卵巣とれば問題ないんでしょ?」と豪語する人のふぐ刺しを食べられますか?
クリエイターが買い叩きに応じる、無償でもいいからやらせてくれと言ってくる…それはプロ意識の欠如そのものであり、彼らに仕事を振るということは、買い叩きに伴う事故を起こしやすい人に大切な仕事を任せる、ということです。もちろん、事故が起これば損害をこうむるのはクライアント自身です。
買い叩きのつもりはないんです…
買い叩きをするつもりはないですが、それでも買い叩きとみられる金額での仕事の依頼は跡を絶ちません。その原因の多くは「制作の相場を知らない」ことにあります。
制作を依頼したいのに相場がわからない…下手に金額を提示して買い叩きと揶揄されるのは嫌だ…一体どうすればいいのか…
答えは簡単です。
クリエイターにいくらで作れるのかを尋ねればいいのです。
尋ねるのが難しいのであれば、制作相場を提示している同業者のサイトを調べるなど、情報を収集する手段はあります。先の記事でも採り上げましたが、幾つかの同業者のサイトを調べれば、依頼金額は大体同じぐらいになることがわかるでしょう。
特に、クリエイターがしっかりと金額を提示してくれる、納期を提示してくれるという場合は、信頼が高いでしょう。見積もりを請求するだけなら無料なところが多いので、このクリエイターになんとしても頼みたい!というので無い限り、いくつか見積もりを集めて検討するのもありかもしれません。どうしても「高いなぁ…」と思った場合は、手元の予算を提示して交渉するのもありかもしれません。もちろん、提示された見積に比べ、予算が大きく少ないという状況でなければですが。
クリエイターを食業にする、そのためには、クリエイター一人ひとりの意識の改革もそうですが、クライアントの理解も欠かせません。
クリエイターを食業にすること、それは、健全な契約のもと、クリエイターとクライアント、双方Win-Winの関係を築けることでもあります。